ダン&レイビーの『スペキュラティブ・エブリシング』は、デザインの役割を根本から問い直す。デザインは問題を解決するためだけのものではない。まだ存在しない未来を可視化し、問いを投げかけるための手段でもある——これがスペキュラティブデザインの核心だ。

AIとスペキュラティブデザインの関係は、驚くほど深い。本書でダン&レイビーは、「ありそうな未来(probable)」「もっともらしい未来(plausible)」「可能な未来(possible)」「望ましい未来(preferable)」という四つの未来の層を提示する。従来のデザインは「ありそうな未来」に焦点を当て、市場予測に基づいて製品を作る。しかしスペキュラティブデザインは、「可能な未来」の領域に踏み込み、まだ誰も想像していないシナリオを描き出す。

AIは、このスペキュラティブな思考をスケールさせる力を持つ。膨大なデータからパターンを抽出し、それを新しい組み合わせで再構成することで、人間だけでは思いつかない未来のシナリオを生成できる。気候変動後の都市はどうなるか。人口が半減した社会のインフラは。言語が統一された世界の文化は。AIは、こうした「もし〜だったら」という問いを、無数に、そして具体的に展開できる。

しかし本書が最も重要な警告を発しているのは、スペキュラティブデザインが単なる「未来予測」ではないという点だ。それは批判的な実践であり、現在の価値観や前提を疑うための装置である。AIがスペキュラティブデザインに貢献するためには、既存のデータのパターンを再生産するだけでは不十分だ。むしろ、データの中に潜む偏見やバイアスを可視化し、「この前提は本当に正しいのか」と問いかけることが求められる。

スペキュラティブデザインは、未来を予測するのではなく、未来について議論するための触媒を作る。AIもまた、答えを提供する装置ではなく、より良い問いを生み出す触媒でありたい。この本は、その可能性を確信させてくれる一冊だ。